2016年5月23日月曜日

ホノルル滞在記① ダイヤモンドヘッド登頂のこと

 此度のハワイホノルル旅行は、僕の勤める会社の永年勤続者への功労として付与されたものであることを冒頭に伝えておきたい。今どき、こうした福利厚生を実施する企業は多くはなく、縮小あるいは消滅の一途であるというのが一般的な見識である。僕らがホノルルに到着した同日、日本を代表する自動車メーカーと、そのグループ会社の方々と空港で一緒になり、どういった主旨のツアーであるかは判りかねるけれど、やっぱりかの企業は大したものだと思った。一方のお前さんらも大したものじゃないかとなる訳だが、気前の良さで制度が維持されているのではないことを承知しているので、また来るべき年にかくあるようにと願うのであった。

 滞在2日目。AM5時起床。ランニングの支度をして早速ホテルを出る。随分と早い時間の行動となったが、あらかじめ時差ボケ修正を考えていたのが功を奏した。
 日本時間に対してこちらは19時間前に戻るので時差ボケは避けて通れない。出国から到着までの移動時間を睡眠に充てたとしても、簡単に解消できるものではないと思い、一睡もしないでホノルルに入った。当然、到着初日はかなり憔悴していたがさっさと就寝し翌日に備えた。

 さて、最初のアクティヴィティはダイヤモンドヘッド登頂ラン。宿泊するシェラトンからワイキキショッピングセンターにあるジャングルを連想させる庭園を抜ける。途中、耳慣れない鳥のさえずりがやけに騒がしい。人工的に作られた庭だけに、スピーカーか何かからかとキョロキョロ辺りを見回したけれど、どうやらホンモノの様子。またもう一方では、大きなディーゼルエンジンの音が聞こえる。そちらはヤシの木の葉落とし、あるいは幹の皮はぎなど、通りの木々のメンテナンスを高所作業車で行っている。もちろん辺りはまだまだ暗い。そんな中、目抜通りのメンテナンスをこの時間帯に行う必要は想像に難くはない。観光地の見えない努力、美観を維持しイメージを損なわないようにするための役割分担があることを認識せずにはいられない。
 妻がその作業風景を写真に収めようとすると、高所作業車に乗ったおじさんがとても器用に作業車を上下左右に、まるでロボットダンスのようにコントロールしながら、僕らに向かってアローハサインを送ってきた。僕らも尽かさず、グッモーニン!と馴れない挨拶でアローハ。僕らは通りをおもむろに走り出す。ふと気になって後ろを振り向くと、彼のダンスはまだ続いていた。

 未明の見知らぬワイキキの街を走る。眼に映るもの全てが新鮮だ。
 ゆっくりと空が明ける。眼前にそびえるダイヤモンドヘッド(以下DH)、左手にはビーチに広場。観光用のホテルの居並ぶカラカウワアベニューの舗道は整備されていてランニングにはうってつけだ。ランナーの姿は少なくはない。この日、見かけたランナーは総じて白人で女性が多かった。すれ違い、追い抜きの際にはほぼ何らかの声をかけ合う。

 カピオラニ公園を挟んで景色が一変する。商業施設が姿を消し、住宅が立ち並び始める。住宅の門扉付近には大きく4桁の数字が表示されていて、住んでいる方のセンスなのだろうか、それらは思い思いの形状で、大きく掲げられているのがちょっと無機質に感じた。名前の表記されている日本の表札と比較するからだろうか。
 そんな住宅地から上り坂が始まる。緩くもキツくもないほどよい傾斜だ。この上りの途中、同じく坂を上る自転車に乗ったカップルと併走し、カタコトの会話を交わす。楽しくて思わず笑顔になる。

 坂の頂上では海側に車が十分に駐車できるスペースが設けてあり、すでにポツポツと人の姿があった。新潟で例えるなら、シーサイドラインから海を眺めるようなものだ。このときの空は薄っすら雲が広がり、紺碧色の海にはいくつも白波が立っていた。風はほとんど感じられない。
 僕らはそんな風景を横目に坂を下った。左手にDHが迫っていて、そこに這うように建てられた住宅群、その反対、道路を挟んだ学校やデパートメント オブ ディフェンス(軍事基地)を通り抜過ぎる。朝の早い時間ということもあり、人影は少なく、僕らの足音だけが響くような、そんな静けさがあった。

 陽は昇り、茶褐色のDHの断崖を照らしている。道に誘導されるようにDHの裾野を上る。少しづつ上昇しながら、眼下に広がる風景を切り取る。とても贅沢で貴重なことに感じ、ときどき脚を止め風景を写真に収める。
 トンネルをくぐり、DHの登山ゲートに到着する。左手にしたガーミンはホテルから7kmの距離を示していた。割とあっけなく着いたというのが感想だった。どうでも良いことだが日本時間で放っておいたガーミンが衛星同期に合わせて、こちらの時間に表示が変更していた。AM6時10分。おおよそキロ6分ペースで辿り着いたワケだ。
 僕らはゲート入り口で1ドル紙幣を2枚渡し、頂上を目指した。登山と言っても整備されたコンクリートの専用道を進むので楽だった。ただ意外だったのは人の多さ。早い時間に関わらず次々に観光客が送り込まれ、僕らの後方には長い隊列が組まれていく。



 30分もかからないぐらいで山頂部に到着。島の山脈から海へと向かう偏西風を肌に受けながら、一通り景色を堪能する。
 頂から見るDHの摺鉢形状と、そこから一望する東西南北の景色は押さえておくべき光景の1つではないか。特に太平洋側は海と空の境が分からなくなるくらい何処までも続いて、いま立っている場所は海の真ん中にぽっかりと浮かぶ島であることを容易に連想させる。




 来た道を戻り下山する。下りで若干行く手を阻まれる。それは右脚の筋膜炎と左のモートンだった。上りは高揚感から気にならなかったけれど、下りになった途端、凸凹したコンクリートの道が苦痛になった。イタタ…と何度も口にしながら下山した。

 AM7時。登山ゲートから往復約50分。最初のアクティヴィティが終了。ゲート付近に据えられたベンチに腰を掛けながら休憩して帰路に着く。

 ホテルまでは朝の街を観察するように少し回り道をした。AM8時、銘々の朝がすでに始まっており、観光地の賑わいと喧騒があった。未明のワイキキとは様相が一変していた。



 真っ青な空が広がり、強い陽射しが僕らを照らした。風はほとんど感じられない。スタート時刻から往路、DH山頂部、そして帰路、と天候を1つ取ってみても地形と環境でまるで異なっていたことに気がついた。これがハワイたる所以であるところの偏西風のもたらす恩恵なのだろうか。(続く)

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