2015年10月12日月曜日

新潟シティマラソン2015

 フルマラソンを走るようになって今年で5年目。新潟シティのフルは5度目の出走だ。そして今回のフルマラソンで通算10走目という、ちょっとした節目に当たるのがこのレースだった。


 スタート前には雨が降っていた。雨脚は走り出してしまえば気にならない程度のものだ。けれどスタートを待つランナーにとっては、出来れば願い下げしたい天候だ。雨は体温を奪い、シューズや衣類を濡らしモチベーションを低下させるものだから。

 開会式ではそんなランナーを慮るように、ゲストの高橋尚子さんが3年前の雨の大会が忘れられないと挨拶で切り出した。雨のいくつかのメリットを明かし、陸上競技場に集ったランナーを鼓舞する。
 ぼくにとってもその大会は忘れられないレースだった。サブ4達成を目標に臨んだ、2度目のフル挑戦。ぼくは雨のもたらす幾つかのメリットを味方に付けて3時間47分でフィニッシュ、目標を達成した。そのプロセスと経験が、現在の有酸素運動へ傾倒する契機となった。2012年の新潟シティマラソンは、それ以降のぼくの人生の時間の使い途を方向付けた大会だった。

 アップをして15分前にはスタートに整列をした。キョロキョロと辺りを見回して見知った顔がないか探す。見当たらない。例年よりスタート時刻が30分繰り上がったことで準備に追われ、皆と逸れてしまった。仕方ない。ひとりで号砲を待った。いつしか雨は止み、ビニールのポンチョを脱ぐか迷ったが、見上げれば薄墨色の空が広がり、いつまた雨が降り出すかわからないので暫くはそのまま着ていることに決めた。

  レース開始時刻、号砲が鳴る。ランナーの群れがゆっくりとスタート地点から吐き出される。ぼくは計測ゲートを踏んだところで左手のガーミンのボタンを押した。レースの始まりだ。
 移動する大きなランナーの群れについていく。極端に遅くもなく速くもないペースで入りの1kmは5分30秒。走破目標からすると遅いスタートだが、息をつくるのには充分だ。先は長い。焦らずに進もう。次の1kmはペースアップする意識で気分良く脚を動かして5分10秒台。そして次は5分ぐらいを目指して思惑通り3km通過はキロ4分55秒。充分だ。ここでアクセルを固定する。あとはひたすら楽に、経済的に走ることを心がけた。

 県庁から千歳橋、関屋大橋と市街地走は殊のほか順調だった。関屋分水路の10km通過は49分と少し。左手の甲にペンで記した通りに進むことが出来ていた。

 住宅街を抜け海岸線へ出る。ここからしばらくは一定のペースで巡航しなければならない。視線をアスファルトに落とすと、視界に入ってくるのは前のランナーの脚部と、被っているサンバイザーのツバ先から一定の間隔で落ちる水滴、雨のそれではなく、ぼくの汗だった。滴り落ちる水滴を見ながら走ることに集中する。自分の息遣いとアスファルトを踏むシューズの音だけが世界を満たし、時間感覚を失うような気がした。

  海岸沿いのコースに出る。心配した風はほとんどなかった。ぼくは相変わらずアスファルトを見つめ、黙々と前に脚を出した。
 15km通過は1時間13分。予定より1分速い。ここで持参したジェルを補給する。調子は悪くなかった。このまま行こう、そう思っていた。顔を上げると眼前には大勢のランナー達が、緩やかに畝るコースをトレースしているのが目に映った。

 新川漁港を過ぎたあたり、確かその辺りだったと思う。坂を上のぼって暫くすると、折り返してきた仲間たちがふっと視界に飛び込んでくる。ファイターズさん、M谷さん、続いて未来ママさん。それぞれに声を掛ける。追いつけるかな、追いつかなきゃ。レース後半を想い描きながら淡い期待と闘志を抱いた。

 20km通過は1時間37分。上手く走れていた。すぐに折り返しとなり、今しがた来たコースを戻る。長い海岸コースのちょっとしたアクセントとなる新川漁港を目指した。
 新川大橋の下り坂を勢いよく駆けおり、漁港に向かって折れる。再び現れる下りを勢いよく駆けて折り返し、今度は坂をのぼる。この時の海岸線に戻るまでの坂がやけに長く感じた。
 海岸線のコースに戻ると幾分緩やかなのぼりになる。すると、後ろから体格の良いランナーに追い越される。身体の割に速いなぁと感心しながら僕は時計を覗いた。なんとラップが5分を越えていた。気を抜いてしまったと、その大柄なランナーに取り付こうとするが、なかなか差は縮まらない。ピッチを上げ並走しようとしたが敵わない。身体が少し重い。それでも25km地点の通過は2時間2分。辛うじて目標はクリアしていた。
 しかし、これ以降はキロ5分ペースを確実に下回るようなった。計画から約10秒のビハインド。焦る。そんな時、すぐ近くでぼくの名を呼び、ファイトー!と大きな声が耳に届いた。H澤さんだ。ぼくは声がする方を振り返る余裕もなく、視線を落としたまま片手を上げて合図した。

 里程標を通過するたびにラップタイムを確認した。5分と数秒。きっと調子を取り戻すことは出来ないだろう。取り敢えず、残りのジェルを補給して息を入れることにした。もしかしたら、ひょっとしたらと回復する可能性を補給に託す。
 ハーフの折り返し地点に停車してある、ランナー回収に用意された赤い大型バスの横を通り過ぎる。回収用のバスなんて自分とはまるで関係のない存在に見えたがその時は違った。出来れば何かきっかけを作って乗り込んでしまいたいと思った。けれどそんな大胆な勇気は持ち合わせていない。このレースをこれからどうマネジメントするか、それがぼくに突きつけられた課題だった。

 30km通過は2時間29分。目標から3分の遅れ。そこまでの道程で思い巡らした幾つかの選択肢の中から、考えを一つに絞った。実は前走のこともあったのでベテランランナーから、30kmあるいはもっと後半で起こりうる事態について、幾つかの助言を授かっていた。ぼくはダメージを最小に抑え、次走(再来週の柏崎マラソン)に繋ぐことを選択した。
 ここでぼくのフルマラソンは終わった。ペースを落としてコースの一番左側に寄ってトボトボ走る。キロペースは6分を超えた。前走の湯沢ハーフと同様、自ら掲げた目標を道半ばで引っ込めてしまった。ほんとカッコ悪いや。
 以降はファンランだった。時々、沿道から受ける声援に対して応答して気を紛らわした。
 タコ公園、西海岸市営プール、マリンピアを通過。普段練習で走る島ランよりもペースは遅く、ピッチも小さい。かと言って、ゆっくり走っているからといって楽なワケではもない。

 アスファルトに落としていた視線を進行方向の遥か先の方や、海や沿道に向けることで、様々な光景が目に飛び込んでくる。声援に呼応したり、沿道の方々とタッチする度に、走る力の助けになった。「ファイト」の何気ない声援が素直に心に沁みて、走り続けるモチベーションを保つ。
 こういうのも悪くないナ。途中で諦めてしまったことへのわだかまりがほぐれ、完走すること目標にゴールへと脚を進める。

 競技場のフィニッシュゲートをくぐったのはスタートから3時間45分後のことだった。5度目のシティマラソン、10度目のフルを完走した。
 雨の新潟シティは、きっと僕に何かをもたらしてくれる。そう思えるように次に臨もう。(了)



2 件のコメント:

ファイターズ さんのコメント...

お疲れさまでした~。
佐渡トラから約1か月後の新潟シティマラソンは、私の場合はランシーズンスタートのレースなので、記録は狙ってませんが、サブ3.5はお互いに切りたかったですね~。
ある意味、これでモチベーションがアップしたと思ってますので、これからが本番です。
私は東京マラソンでの好記録を目指します。(^^)/

Cyguns さんのコメント...

ファイターズさんへのお返事です。
全くその通りです。佐渡トラでちょっと満足した自分がいたと思います。これらの失敗を糧に、どこへ向かっていくのかをちゃんと定めたいと思います。目指すところは決まっているので、ブレずに進みます。来春までにはリニューアルします!