2015年8月3日月曜日

2015佐渡オープンウォータースイミング(SOWS)のこと

 

 ライフセーバーの黄色いカヤックが海上にスタートラインを作っている。その後方にぼくらは静かにスタートを待つ。スタート1分前、そして30秒前。セーバーがコースを開く。そしてスタートの合図。
  ゆっくりと沖に向かって歩き出す。水位は膝の上ぐらい。ズンズン前進しながら、腰に浸かるぐらいまでは歩いてイイかなぁと思った。海水の温度が少し下がり、濁った海水が青色を取り戻す。
 ぼくは覚悟を決め、息を大きく吸って海面に飛び込む。OWSのはじまりだ。けれど自由には泳がせてはくれない。前後左右にスイマーがいてプルもキックも誰かしらの身体に触れる。位置取りバトルとかそんなカッコイイものじゃなくて、水中で皆が右往左往しているようにみえる。
 それらを交わしながら進路を沖へとる。キックは殆ど使わずにプルを大きく気持ち深めに、腰のあたりまで持ってきてからスッと手を抜いて、お化けの手で海面を撫でながら遠くをキャッチする。ブレスはプル2セットに1度。焦らずにいつもの動作でゆったり泳ぐ。時々ヘッドアップして位置を確認。多少蛇行しているようだけど、概ねコースの真ん中に位置している。
 ブレスの度に、周囲にはスイマーがいることが確認出来た。水中では一人で泳いでいるような感覚に陥るけれど、そうではなくて多くのスイマーが同じ方向を目指し泳いでいる。ぼくはウエットの鱗を纏ったサカナの群れの一部になる。青い水は先の視界を閉ざしたままで、時々、他のスイマーのプルやキックで出来た泡が視界に入った。距離を進む感覚はほとんどなく、水をキャッチすることで前進しているとのだと信じるしかない。
 岸から離れる程に波のうねりを強く感じ、それに逆らわないよう、出来るだけ同調するように努める。けれど不用意に水面をたゆたおうものなら、間違いなく波酔いしてしまうだろう。僕は泳ぎながら何度となく自身の三半規管を呪った。

 第1ブイまで730m。インコースを突いて右に折れる。海面に屹立する黄色いブイに佐渡国際トライアスロンの白地に黒い文字を見た。
 この方向転換は随分と波に煽られた。枯た海藻が進行方向からいくつも流れてきて、それらが手に絡みつく。潮の流れか。そして、ここで何人かと接触。このとき小刻みにキックを入れて振り切ろうとしたのがいけなかった。何度目かのキックで右のハムストリングスから下が攣ってしまった。右の腰から下が反り返ってしまう。死後硬直した青魚のイメージが浮かんだ。どうにも動かない。ただ、幸いにも強い痛みはない。強張りが和らぐのを待って恐る恐るキックする。また攣ってしまう。キックを諦めてプルで進みつつ、右のブレスを左に変えたりして身体を解しバランスをとる。発汗による脱水か。夏場のウェットスーツの洗礼を受ける。

 第2ブイまでは公式アナウンスでは900m。それは遥か遠く、オレンジ色のブイの延長に黄色いブイを確認する。ぼくはインコース付近のブイをつないぐロープに沿って泳いだ。時々ロープにぶつかる。その度に進路修正をする。ブレスの度に黄色いカヤックに乗ったセイバーが視界に入った。
 キックがないので呼吸に余裕が生まれ、3セットプルに1度のブレスを試す。海底を見るようにまっすぐ態勢をとってグッと力強く進む。けれど波に揺られる。これがイケなかった。波酔いが確定的になる。
 このとき、泳ぎながら思ったこと。とにかくスイムに苦手意識を持たない。ネガティヴイメージを脳裏に植え付けないようにした。波酔いは気のせいだと。波酔いしているけれど、イヤ酔ってない、と事実を認めないようにした。酔ってない、酔ってない。呪文のように繰り返す。来月の本番に向け、できるだけ良いイメージを持たねばならない。気を紛らわそうとブレスの度に空に求めた。けれど、そこにはさっきから替わり映えのしない夏の青い空しかなかった。

 漸く第3ブイを折れ岸を目指す。ゴールまで残り370m。あと少し。そう思ったら気持ちが緩んでしまい、泳ぎながら水中で2度エズク。もちろん内容物はないのでご心配なく。
 チョットへたばりかけているとラストスパートをかけるスイマーに次々と追い抜かれる。その中にはスピリットZさんも含まれていた。案外と自分が健闘していたことを知り、気持ち悪いながら頑張って水をかいた。ヘッドアップするたびに岸が近づいて来る。水温が生ぬるくなり海の底が見えてきた。
 浅瀬まで辿り着き立ち上がった。頭がくらくらする。それに海水が脚にまとわりつくようだった。浜にたどり着くまで少し時間が掛かった。階段を上がり赤い毛氈をまたいだところがゴール。すぐ目の前にKさん、スピリットZさんがいた。気持ち悪くてフラフラだった。やり遂げたという達成感が勝ったかにみえたが、また思いっきりエズイてしまった。

 これで今月のスポーツイベントは終了。翌月の佐渡トラまで淡々とトレーニングをこなすことになるだろう。佐渡トラ目標と言うよりも、もう少し先の目標を目指してだけれど。
 それから三半規管強化のため、でんぐり返しをする必要があることも良くわかった。これはもちろん佐渡トラ対策だ。とても重要なトレーニングであることは言うまでもない。(了)


 

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